おもちゃ。02



「取って、アレ。」

眼前にはツナの笑顔。

(ムリです!)

なんて言える訳がない。

(……ええい! ビビんな、オレ!!)

まさかこんな卑猥な、オマケに出所も怪しいものを
「10代目」に触れさせるわけにはいかない。
超直感を持つツナが警戒を示していない
という事は、それなりに安全と踏んで問題ないのだろうが、
それでも用心するに越したことはない。
それに何より、

(10代目のお手にこんなもん持たせんのは、絶対イヤだ!)

獄寺は身をよじり、ベッドサイドのテーブルからそれを掴み上げた。

(……つか、ホント、どっから現れたんだよ、コレ!)

綺麗なスカイブルーのくせに、それはそのまんまなカタチを持ち、
しかも、どう考えても大型だった。
握った感覚が、既に手に余る。

(まさかあり得ないとは思うけど、ぜってームリ!!
 ぜってー無理だけど、でも、もし、その時は……)

できるだけ見ないようにしながら、獄寺はそれをツナの前に差し出す。
もちろんできる事なら、ツナにだってこんなもの見てほしくないのだが。

「……ねぇ。なんか、これ……」

しかし、獄寺の望みとは反対に、
ツナはしげしげとそれを眺めて、ぽつりと感想を漏らした。

「これ、ここまでくるともういっそギャグだよね。」

そして、視線を獄寺に転じて疑問形を口にする。

「こんなサイズの人って実際にいるのかな。」
「あっ、あのオレ、詳しくは、知りませんが、」

慌てて答えようとして獄寺は舌を噛んだ。

「こっ、この部分は個体差も大きいですし!
 人種の差もありますし、年齢的にもまだ成長期ですし、
 10代目がお気になさる必要はちっとも……」
「えっと、獄寺君?」

手を振って、ツナが獄寺の言葉を遮る。

「あの、気持ちは嬉しいんだけど、その……
 オレ、別に……比較して自信なくしたとか、そういう訳じゃ……」

控えめに、ゆっくりと一つずつ選びながら紡がれるツナの言葉に、
獄寺は消え入りたくなる。

(……失言した……)

「……すみません。10代目。」
「いや、謝らなくてもいいから。
 ホラ、オレ、元々あんまり自信無いってゆーか、
 期待してないってゆーか……」

ツナは困ったような顔で頬をかく。
本心、なのだろう、でも。

「そんなことないです!」

獄寺は叫ばずにはいられなかった。

「オレ、10代目の好きです!!」

ツナは、きょとん、とした顔になる。
きょとん。
そして、その頬が、ゆっくりゆっくり赤くなっていく。
かすかに肩をふるわせて、声をひそめてツナは笑い始めた。

「な、なんかホント、獄寺君には、敵わないよね。」

目が細くなって、その端に、ほんのちょっと涙が浮かぶ。
とても珍しい事なので、獄寺はひどく動揺する。

「ふ、あ、あの、10代目? オレまたなんか変な事いいました?」
「い、いや、ぜんぜん。」

言いながら、ツナはくっくっと笑い続ける。

「てゆか、うん。オレも、獄寺君の好きだよ。」

『好きだよ。』
言われてやっと、獄寺はツナがなんで笑っているのか理解した。

(あ、アホか、オレ! 何言ってんだ!)

あまりにも単刀直入すぎた。
自分の無鉄砲に対する羞恥と、
ついさっき言われた言葉が気恥ずかしいのとで、
獄寺の頬はみるみる赤くなる。

「それに、そーだね。
 よく白人のほうが大きいって言うし、
 獄寺君のもこのぐらい大きくなるのかもね。
 じゃ、逆に都合いいや。」
「な、なんスか、都合って。」

獄寺の言葉には取り合わず、ツナはベッドに座ったまま獄寺に一歩にじり寄る。

「オレは、触っちゃ駄目なんだよね?」
「あ、はい。その通りっス。」
「じゃ、ちゃんと持っててね。」
「はい?」

獄寺は右手にソレを持っている。
その右の手首をツナがつかんだ。
くい、と先端をツナのほうへ向けさせる。

「獄寺君、いつまでもさせてくれないから、これで練習。」

ツナは、ちゅ、とスカイブルーの無機物の先端にキスをした。

「な……!!」

(そりゃ、確かに触るなとは言いましたけどっ!
 舐めるなとは言いませんでしたけど、
 でもっ!)

獄寺が制止の言葉を探している間に、
ツナは大きく舌を突き出して、透明な棒を根元からぺろりとなめ上げる。
舌の赤が透けて見えて、
ひたりと偽物の棒の裏側に張り付いて、
獄寺は思わず息を呑む。

(こんなもん、ただの、プラスチックの棒だ。なのに……)

ツナは少しずつ顔の角度を傾け、舐め上げる位置をずらしていく。
ちょうど、いつも、獄寺がツナのそれにするように。
獄寺がツナの身体にするように。

「……、ん、ぅ。」

先端まで舐めあげて、再び根元へと戻る。

「……ふぅ。
 …ぇ………………」

そのかすかな呼吸が、獄寺の鼓膜をくすぐって、身体をざわつかせる。
下面全体を舐め終えて、
ツナはついに口を開け、ぱくりとその棒を銜えた。
根元までしっかり銜え込もうとして、
しかし、ツナの口にはそれは大きすぎたらしい。
けほっと小さくむせて、一度口を放した。

「……失敗。
 いつもやって貰ってるの、真似したかったんだけど。」

『どーしようかな。』
呟いて、ツナは今度は半分ほどを口内に含んだ。
きゅう、と、頬をへこませてながら吸い上げる。
ちゅぽ、と、先端が口からこぼれて落ちる。
かち、と、小さな音がした。

「あ、ごめん。いま、歯、当たっちゃった。」

当たったのは自分のじゃないのに、獄寺はそこが疼いた。
ほんのちょっと、足をずらして座り直す。
『どーすればよかった?』
見上げる視線が聞いている。

(こんなこと、10代目に、お教えする必要は……)

そう思うのに、獄寺は動き出す唇を止められなかった。

「あの、最後は、下唇に、舌乗せて、歯を隠せば……。
 その……オレは、そうして、ます……」
「ん。やってみる。」

ツナは再びプラスチックを口に含み、吸い上げる。
口内から現れるそれは、綺麗なスカイブルーのくせに、
濡れて、てらてらと光っている。
ちゅぱ。
先端が飛び出して、今度はどこにもぶつからなかった。
ツナが満足げに顔を上げる。

「っ、10代目、あの、もうこの辺で……」
「まだ、終わってないよ。」

くい、と手に力を入れられて、先端が少し上向く。
もちろん獄寺は抵抗したのだが、
上から重ねられたツナの手の力に、どうしても抗いきれなかった。
獄寺はまた身じろぎをする。
一瞬目が合ったが、ツナは何も言わなかった。
何も言わずに、その棒のまだ乾いた部分にキスをした。
唇で甘く噛むように繰り返していくと、
反動で、棒の先端が徐々に下がっていく。
支えようとツナは左手を出して、触れる寸前で、止めた。

「……あ。オレ触っちゃ駄目なんだったっけ。
 ちゃんと持っててね。獄寺君。」

顔は下を向いたまま、
上目遣いに見上げた瞳はいたずらな笑みを浮かべている。
腰の奥が疼いて、獄寺はじっとしていられない。

(わざと、だ……)

この人は絶対に優秀なボスになる。
最近、獄寺はそう思う事が増えた。

(あのボンゴレ9代目のご指名で、
 最強のリボーンさんの教育を受けてて、
 なんも……ないけど、オレが自分で決めて、
 疑ってたつもりなんかなかったけど……)

持ち直されたそれに、ツナはキスを再開する。
獄寺は、なんだか手が痺れてきた。
胸が苦しい。
と言うか、正直に言えば、そこが苦しい。
まだベルトを緩めてもいないのだ。

(ぜったい、わざとだ。)

獄寺が確信したちょうどその時、見計らったかのように、
ツナのキスが獄寺の指をかすめた。
熱い、とろりとしたものが触れて、
獄寺は反射的に手を放してしまった。
それが落下して、敏感になり出したその部分に落ちた。

「ぅあ、」
「……あーあ。」

思わず獄寺は腰を引き、
オレは拾えないよ、とばかりにツナは両手を上げる。

(絶対に、わざとなさってる!)

獄寺は、落ちたそれを指でつまんで後方に遠ざけた。

(やっぱりこんなもの、10代目に触れさせるわけにはいかない!)

「もう、おしまいっスからね!」
「はいはい。」

くす、と、ツナの笑った声が聞こえた気がした。

「でも、こっちは、触ってもいいよね?」

膨らみ始めた部分に手を添えられた。
肯定の言葉を口にするのが憚られて、代わりに、
獄寺はゆっくりと両膝を立てる。

「さっきの、不合格?」
「……技量の問題じゃありません。」

お上手です、とは、さすがの獄寺も言えなかった。
ボンゴレ10代目が、そんなコト得意になられても困る。
そもそも、ここで自分とこんなことしている事自体、問題がある。

「アレに触るのは駄目でこっちはよくて、
 で、あれは舐めてもいいけどこっちは駄目なんだ?」

(違う。)

本当はどっちも駄目だ。

「あれは、10代目が……」

反論の途中で、抱き寄せられた。
肩が触れる。
首筋に顔を埋められる。
わかってもらえたんだろうか、と、獄寺は安堵する。
獄寺にしてみれば、
ツナの前では、アレも獄寺の身体も同列なのだ。

出来れば、触れさせたくない。遠ざけたい。
この人を穢したくない。
いつのまにか、
こんなことになってしまったのは……

つい、押し切られてしまったからだ。

ふう、と、獄寺の耳元でツナがため息をついた。

「獄寺君。さっきの、もっかい言おうか?」

『さっきの』
獄寺は、何の事かわからない。
ベルトに手がかかる。カチャカチャと外されていく。

「あれ、ホントに忘れられちゃったかな。」
「いえっ、まさか。」

獄寺が、ツナの台詞を忘れるはずがない。
ただ、どれの事を指しているのかわからない。
脳内を検索しているうちに、ズボンが脱がされる。
下着が剥ぎ取られる。

「オレ、獄寺君の好きだよ。」

(あ、)

「だからオレ、あんなのじゃなくて獄寺君のでしたいなぁ。」

(しまった、また……)

頭を垂れて、ツナの言葉はくぐもっていた。
あたたかくてやわらかな唇が
立ち上がりかけの敏感な部分に触れる。
だから、制止の言葉のために開けられた獄寺の唇から漏れたのは、
全く逆の、鼻にかかった声だった。




next03
backIndex





.08.03.15