ソシテ、ボクニデキルコト



 ツナが出て行った後、次に部屋を出たのは獄寺だった。
 結構勢いつけて、軽くダッシュ。ツナの後を追うのかと思ったら、ツナとは逆向きに廊下を曲がる。階段を駆け降りる。
 カンカンと高い速い足音が響いて、ツナはちらっとそっちを見た。
 カンカンカンカン、カン。唐突に、足音は止まる。
 ……おーい、獄寺ー。7段で終わる階段はここにはねーぞー。
 こっちがやってらんなくなって、オレは頭を掻いた。
 充電切れ、な。獄寺の「10代目バッテリー」。
 ツナは、ぴたりと足を止めて、そんで、またすたすた歩き出した。おくれて、ビアンキの姉さんも立ち上がる。不機嫌そうに不満そうに。
 正直、この人のことはよくわかんねーのな。
 もともと女ってよくわかんねーし、獄寺とはややこしいらしいし、おまけに10年経っちまってるし。
 けどまあ、なんか二人でギクシャクしてるのはわかる。
 獄寺が、走って飛び出す程度には。
 んで、階段の途中で止まっちまうぐらいには。
 「山本、」
 考えていたら、小僧が肩に飛び乗って来た。
 「オレ達も行くぞ。気になるのもわかるが、今お前達がやるべきことは自分自身を強くすることだ」
 「……小僧は本当、甘くねーのな」
 ひょいと肩から降ろして机の上に座らせる。ゆっくり壁から身を起こし、部屋を出て行こうとする雲雀の目の前に。
 「え……っと。すんません。5分ほどツナと交換って事で」
 「赤ん坊……?」
 続きは知らない。オレは部屋を飛び出した。
 まあ、大丈夫だろ。小僧もデッカイ雲雀もどっちもすげーしな。



 「ツナ!」
 ツナが時々スゲーツナになることに、オレはあんまりおどろかない。
 バッターボックスで、集中すると頭ん中が凍って、静かに冷たくなるときがある。それと似たようなもんだろ、きっと。オレはデコから炎は出ねーけどな。
 「ツナ、ちょっといいか」
 「山本。……何だ」
 ……うん。あんまり驚かない。ちょっと雰囲気違ーけど。
 「ちょっと、獄寺の話」
 「ああ……」
 それで話は通じたようだった。
 「アイツも、うまくいってねーの?」
 「……そうらしい」
 間があった。
 言わねーから訊かねー、けど。
 「前途多難はみんなおんなじか」
 多分そのことをアイツは知らない。
 「……なんか、言ってやったら?」
 「オレは……」
 ツナはちょっと唇を噛んだ。
 「オレは、さっきランボとハルにやつあたりした」
 「……え?」
 「オレは強くなりたい。すこしでもいい。変わりたい。
  敵を倒すとか、そんなんじゃない。ランボやハルや、みんなを泣かすようなオレをやめたい。」
 ふっと、明るいオレンジの光りが大きくひらめく。
 一瞬消えそうに揺らいでは、また湧き上がる。
 「今日のトレーニングが終わったら、二人には謝りにいく。謝りに行けるように、オレは強くなる。でも……」
 ツナは悩んでいた。ツナも悩んでいた。
 「でもきっと、そんなんじゃない。護ったり、守りきれなくて怒鳴って謝ったり……」
 右のグローブが、きつく握りしめられる。
 「だから、強くなるまで会えない。」
 会えないって。誰が?
 それはきっと、お互いに。
 獄寺はふがいない自分を晒せない。ツナは獄寺に弱い自分のままじゃ会えない。
 アイツは右腕になりたいから。ツナはきっとボスになろうとしてるから。
 本当、めんどくせーのな。男って。
 「了解。」
 オレ達は、みんな強くなりたいんだ。
 「そーいや小僧も同じ事言ってたぜ。
  今お前達に必要なのは強くなることだって」
 「……、本当か?」
 ツナは驚いたような、そんですこし嬉しそうな顔をした。
 「うそついてどーすんだって。じゃ、また飯ん時にな!」
 立ち去ろうとしたオレの背中に、今度はツナから声がかかった。
 「山本!」
 振り返る。
 「山本はどうして強くなりたい?」
 「どーしてってそりゃ、オレ負けんの嫌いだし……」
 それになにより
 「言ったろ。オレ、お前らとは、ダチでいたいんだ。」










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タイトルは、
day after tomorrowの
交響曲なお話のRPGのテーマ曲な、同名曲からお借りしました。
あのRPGシリーズは、もうゲームする時間ないのに
ついチェック入れてしまうなあ。