チョコレートの作り方。 When ingredients are mixed in this way, sometimes for up to 78 hours, chocolate can be produced with a uniquely mild, rich taste. 時。内容物が混ぜられた。このように。 時々。……なんだろ、上? 78時間。 チョコレート。できる。製造される。with……うわ、なんだコレ? ユニーク? マイルド? リッチ? テイスト? 聞いた事あるけど、全部日本語でも使う言葉だけど、 でも訳せないよ、なんだよこれ! あーもーやだ。もうイヤだ!! 「もー……、英語もチョコレートも滅んじゃえっ!」 うつぶせに身を投げ出すと、押し出されて教科書が机から落ちた。 ばさり。 うう。拾ってなんかやるもんか。 「、あの、じゃあ、」 床に落ちた教科書を見て、壁の時計を見て、獄寺君がペンを置いた。 「そろそろ休憩にしましょうか? 10代目。」 「……する。」 「じゃ、休憩っスね。」 獄寺君が、オレの落とした教科書を拾って、埃を払って、ぱたんと閉じた。ノートも参考書も電子辞書もしまって、机の上には何もなくなる。 獄寺君は、こういうところが意外ときっちりしている。どこかに切り替えスイッチがあって、勉強するときは勉強するモードだし、そうじゃないときはそうじゃない。 かっこいい。と、思う。獄寺君は不良だけど、実は『いい子』だ。 対して、オレはというと、だらだら勉強してだらだらと休憩に入って、そのままだらーっと机に転がっている。右の頬を机にくっつけて、獄寺君が、勉強するために外していた指輪をまた嵌めていくのを見ている。 一つ、一つ。 綺麗な指だ。綺麗な人だ。で……、オレはやっぱりダメなやつだ。 「お腹すいた。なんかお菓子食べたい。」 「食いもんスか?」 獄寺君は自分の鞄を覗き込み、ちょっと眉をひそめた。綺麗なおでこにしわがよる。 「あの……、アーモンドチョコなら。」 獄寺君は白い箱を取り出して、振ってみせた。カラカラと音がする。 ああ、よりによってチョコ。 今やっている英語の授業は、そのままズバリ『チョコレートの作り方』。 明日、出席番号順で当たる予定だから、オレは教科書まるまる1ページをきっちり訳しておかなくてはいけない。けど、ずらずら並んだアルファベットは何言ってるんだかさっぱりで、目を閉じても、まぶたの裏でchocolateというスペルがチカチカする。おまけになんだよ、最後のあの1行。 「……チョコなんか、滅んでしまえ……」 「……っスよね……」 オレは半泣き。獄寺君は苦笑い。 「でも、すみません。コレしか持ってないんです。申し訳ありません。」 獄寺君はそう言って、机にパッケージを置いた。蛍光灯の光を受けて、フィルムがきらきらと光る。それを見る獄寺君の瞳は、しょげた様にくすんでいる。 獄寺君が申し訳なさそうにするのは変だ。 どうせ、英語の授業でチョコレートの話をしている事と、オレが英語ができない事と、そろそろオレに訳が回ってくる事と、その辺をいつもの超理論で繋げて「失敗した」とか思っているんだ。「右腕失格だ!」って。けど、英語でチョコの話をしてるのも、オレが英語ができないのも、放課後呼び止めて予習につきあってもらってるのも、全部獄寺君のせいじゃない。 よくつきあってくれるよな、と、思う。校庭から聞こえていた部活の掛声も、もう随分まばらになってしまった。こんなに長い時間、よくつきあってくれると思う。オレの予習はなかなか前に進まない。獄寺君は、向かい側からちらっと読んだだけで、オレの質問にすらすら答えてくれる。全部わかっているはずなんだ。だって獄寺君は辞書も引かなかった。 こんな簡単なところで手間取っているオレに、よく付き合ってくれるよな。 ……あ、余計に情けなくなってきた。 情けなさは、お腹にくる。なんか食べたい。オレは、お腹がすいている。ような気がする。 でも、とパッケージに目をやる。 白いパッケージにchocolateの文字。 なんだかうんざりする。チョコは、イヤだ。今、オレはチョコを憎んでいる。わけわかんない英語と情けないオレの身代わりに。 そう、八つ当たりだ。オレは、お腹がすいていて、チョコを憎んでイライラしていて……、うん、そういう気分だ。 「チョコはいらないんだよなぁ。」 ため息をつきながら、右手を出した。うわあ、オレ、わがまま。 なのに、 「すみません。」 獄寺君が謝って、オレの手のひらに、そっとアーモンドチョコを一粒のせた。オレはそれをそのまま自分の口の中へ。それから立ち上がって、机の向かいの獄寺君を捕まえた。 「へ?」 間の抜けた声を出した口にキスをする。舌先で、アーモンドチョコを彼の口の中に送り込む。オレから、彼へ。 チョコはつるんと獄寺君の中に入った。 「チョコは、いらないんだ。でもアーモンドはオレのだから、噛んじゃダメだからね。」 命令して、もう一度口づける。強制的に、閉じられなくなった歯の間から、口の中に侵入する。獄寺君の中は、ざらざらした舌と、つるつるした歯と、少し濡れたチョコレート。 机を片付ける癖は不利だったね。机に上ったオレは座ったままの君より背が高い。だから、逃げられないでしょ? 首の後ろに手を回して、彼の角度を変えた。 チョコレートはいらない気分。甘いあまいものは全部君に押し付けて、息も出来なくしてあげようか? 温まったチョコレートが、さらさらと溶け始める。 さらさら? へんなの。 オレはちょっと驚いて、目を開けた。獄寺君は、ぎゅうと困った顔で目を閉じている。 ああそう言えば、さっき訳したところにあったな。 『チョコレートは、その大部分は、カカオの細かい粒子からできています。』 思い出して、また目を閉じる。さらさらは、すぐにとろとろになった。甘い。 『カカオは、それ自体はとても苦いので、そこに砂糖と、ミルク、ココアバターなどの油脂分が加えられます。』 だから甘くて、とろとろと溶ける。溶けたチョコレートを、獄寺君が舌でぬぐい取る。 一瞬、肩に力が入った。チョコが甘いからだ。 獄寺君は、こんな風に甘すぎるものは嫌いなはずだ。オレに、舌を入れられるのも。いつだって、ダメですって嫌がられる。逆はいいらしい。獄寺君の基準はよくわからない。 今、口を閉じないのは、オレが噛んじゃダメって言ったから。甘いチョコを舐めるのは、オレがそうしてって言ったから。獄寺君の真ん中は、いつだってオレだ。 ……ねぇ、なんで? 空腹や苛立ちにすり替えても、オレはかなしくなる。情けなくなる。 じゃあ、せめて…… 獄寺君の舌をオレの舌で拭った。甘ったるいチョコでぬるりと滑った。獄寺君がびくりと震えた。 ああ、これが気持ちいいのなら、もう一回。 繰り返すと、今度は舌が擦れ合ってざらざらした。もう舌の上にチョコは残っていなかったからだ。でも、アーモンドの方にはまだチョコが残っている。いい子の獄寺君は、舌先で丁寧にそれを舐めとっていく。甘ったるそうに、眉をひそめて、身体を硬くして。 硬い芯が、やっとちょっと顔をだして、二人を引っ掻く。 すべすべと乾いていたチョコレートは、今はぬるぬると甘くて苦いものに覆われて、口の中の異物感は、なんだかアレみたいだ、なんて思う。 ……って、うわ…… カア、と、身体が熱くなる。彼を捕まえていた腕に力が入る。舌が、一歩深くに差し込まれて、そこは熱くて柔らかくて、どきりとしたオレは彼の身体を放してしまった。 は、と、その隙に、獄寺君が短く息を継ぐ。口元を拭う。目が合った。彼は、何も言わない。オレは背中に手を回して抱き寄せる。首から下げたチェーンがオレのジャケットのボタンに引っかかって、すぐに外れた。とくんとくんと身体が脈打っている。息継ぎを終えて、今度は獄寺君から口づける。顔を傾けたら髪が揺れて、いつもは隠れている耳が姿を現した。赤く火照っている。 触りたいな、と思う。 触っちゃダメかな。触ったら、獄寺君、気持ちいいかな。 わからない事だらけだ。英語もチョコレートの作り方もどうでもいいよ。そんな事より、オレはどうやったらもうちょっと上手くできるのか知りたい。獄寺君は全部知ってるはずなのに、どうしてオレなんかに付き合ってくれるのかも。こんなやり方以外で、どうやったらその答えを探せるのかも。 空腹や苛立ちにすり替えても、オレはダメだから、なかなか動き出せないんだ。 わからない事は、知っていけばいい。試してみればいい。獄寺君はいい子だから、オレに付き合ってくれるから。何より、オレがそうしたいから。 ああ、やっぱりわがままじゃないか。なんてダメなオレ。 そろそろと手を伸ばして、彼の耳に触れた。そっとそっと、繊い産毛に触れるかどうか。 なのに、獄寺君は飛び上がるくらい、びくりと身体を痙攣させた。眉根を寄せて、恨めしげにオレを見る。 『どーしてンな事なさるんですか』 これは、気持ちいいのを我慢している証拠。そのぐらいは、オレだってわかるようになったよ。 中指の先でもう一度彼に触れて、そのままゆっくり指先を降ろしていく。顎のラインを辿って、首筋をなぞって、ワイシャツの襟の中に潜り込む。獄寺君の手が、オレのジャケットの肩を掴む。 白い手も、長い睫毛も、堪えるみたいにひくひくと震えている。震えながら、舌先だけが、従順にチョコレートを舐めとっていく。 硬く尖った木の実が、存在を主張し始めた。ちりちりと二人をつつく。はやくはやく、はやく、もっと。 だけど、ほんの少し唾液にとけ込んだチョコも、二人を誘う。ゆっくりゆっくり、まだ、もうちょっと。 あまいあまいあまい…… やり方が、正解かどうかはわからない。だけどオレはそうしたいから、ゆっくりとじりじりと、彼の腔内を犯す。 震える肩が、染まった頬が、コレも正解だって教えてくれてる。 「おつかれさま。」 かりかりと、オレはアーモンドを齧る。 獄寺君は、肩で息をしている。耳まで真っ赤で、目を逸らす。 獄寺君にはスイッチがある。スイッチがあるから、そう簡単には切り替えられない。 「……休憩にする? 獄寺君」 「…………」 獄寺君は、涙目。オレは、きっと笑っている。 ほんの少し、答えがわかったから。 笑いながら、チョコをもう一粒、今度は獄寺君の手のひらにのせた。 オレにはスイッチがないから、こんな事をしながらでも、答えを探せるんだよ。 When ingredients are mixed in this way, sometimes for up to 78 hours, chocolate can be produced with a uniquely mild, rich taste. このように、時には78時間もかけて、材料を練り合わせると、 チョコレートはその独特の滑らかさと豊かな風味を得るのです。 「予習は終わったから。ねぇ。今度はオレに、チョコをちょうだい?」 08.03.02. 英文はwikipedia英語版Concheのページより引用。 back |