おもちゃ。01 何がどうしてそうなったのかはわからないけれど、 気付いたら「それ」はそこにあった。 (……うん、本当に気がついたら、あった。 少なくともオレは用意してないし……) ツナはちらりと隣の獄寺を見る。 獄寺も同様に、突然現れたそれをあぜんとした様子で見ている。 (やっぱり獄寺君も違うみたいだし、 ナニコレ、天罰? それともプレゼント?) ◇ それは突然現れた。 ベッドサイド、 ゴムとかローションとかミネラルウォーターとか、 そういうものを置いておいたところに。 ツナが獄寺のネクタイに手をかけたちょうどそのときに。 突然現れて、ころんと半回転転がり音を立てた。 こつり。 そして、振り向いたら、あった。 水色の半透明のプラスチックの細長い棒状の、 しかし圧倒的な存在感を放つ…… ◇ 「あれって、バイブ……」 ツナが最後まで言う前に、獄寺が大声を出した。 「だっ、だめです!! 10代目がそんな言葉を口にしちゃあ!!」 (あ、じゃあやっぱりアレそうなんだ。) ツナはまだ実物を見たことがなかった。 獄寺の取り乱した様子で、やっと推測が確信に変わる。 (で、獄寺君もあれがそういうものだって知ってるんだ。) 「……獄寺君、使った事ある?」 「なっ……!」 獄寺は顔を真っ赤にしてぱくぱくと口を開け閉めした。 (あ、金魚みたい。) かわいいなぁと眺めていると、 突然、金魚はがくりと肩を落としてうなだれた。 「……つか、あの、10代目。 真っ先に気になるのはそれなんスか? こう、何で突然こんなものが、とか、もしや敵襲か、とか……」 「いや、なんかオレ 突然とんでもないものがでてくるの慣れちゃって…… あんまり気にならないんだけど、獄寺君、気になる?」 きっかり三秒、目の奥に『気になります』と表示させおいて、 次の瞬間、獄寺はその表示を吹っ飛ばした。 「ちっとも、気になりません!10代目がお気になさらないんでしたら! ポルターガイストの一種だと思うことにします。」 しかし笑顔は引きつっている。 「……気になるんなら無理しなくていいよ?」 「いいえ、ちっとも。妙な霊もいるもんですね! 他人のベッ……ド、に……」 しゅるしゅると語尾が縮んでいく。 先回りして、勝手にこの後の展開を考えて、 自分の予想に自分で押し潰されているのだ。 (そんなこと、するつもりないんだけどなあ。) 獄寺の心理はおぼろげにわかっていて、 あえて、 半分冗談で、 ツナは同じ質問を繰り返す。 「獄寺君、あーゆーの使った事ある?」 獄寺は顔を伏せる。盛大に顔が紅潮している。 (こういう反応するからって、した事あるとは限らないのが 獄寺君の行動パターンのよくわかんない所なんだよな。 今度は一体どういう論理展開しちゃってるんだろ?) 獄寺は、数手先を読んで気を回してくるタイプだ。 しかし、というか、しかもというか、ともかくまるで明後日の方角に。 だから結局、胸の内を読み合うよりも じっと相手の出方を待ったほうがいい、と、 ツナは最近やっと学んだ。 手持ち無沙汰なので、ツナは自分のネクタイを外す。 シャツのボタンも上から一つ、二つ、と外していって、 いや、まだ全部外すのは早いかもしれない、と、途中で手を止めた。 獄寺は、まだ考え中。 姿勢を低くしてその顔を覗き込んでも、頭の中までは見えない。 そーっと手をネクタイに伸ばすと、獄寺はわずかに顎を上向かせた。 しゅるる、と、ネクタイを抜き取る。 ボタンを外す。 一個、二個、三個…… 白い肌が露になっていく。 (コラ、早くしないと全部外しちゃうぞー) 心の声が届いたのか、 獄寺は一度ぱちりと瞬きすると、顔を上げた。 キッと真正面からツナを見つめる。 「10代目。」 「はい。」 ツナも顔を上げる。 「オレは、10代目があんな得体の知れないものに触れるのは反対です。」 (まあ、そーだよね。) 10代目の安全第一、な、獄寺らしい答えだ。 が。 (でも……。やっぱり全然質問の答えになってないよ。獄寺君。) 「ですから、もし10代目があれに興味をお持ちでも、 10代目は触っちゃ駄目ですからね。」 「う……ん?」 「もし10代目があれを使ってみたいとおっしゃっても、 10代目は触っちゃ駄目ですからね。 もし万が一あれを使うようなときは、あれはオレが持ちますから。」 ツナは、理解に苦しんだ。 (えーと、獄寺君が持つ分にはいいけど、オレは触っちゃ駄目…… て、なんかまた変な理屈きたー!!) もちろん、獄寺は大真面目だ。 来るなら来いと言った表情で、 緊張した面持ちで、ツナを見つめている。 (てかオレ、そもそも使うなんて言ってないし!!) ああいうのって、もうちょっと基本的な事をやり尽くしてから 手を出すものなんじゃないか? 少なくともオレたちは、まだやってない事がいろいろ…… (……あ。) いろいろ、を考えていたら、ツナはつい妙案を思いついてしまった。 「獄寺君。」 「ハイ。」 「じゃあ、どうあってもオレはあれを触っちゃだめだって言うんだね?」 「そーっス。譲れませんからね。」 「わかった、じゃあ、」 できるだけなんでもない風を装って、ツナは獄寺に命じた。 「とりあえず、取ってきて、よく見せて。アレ。」 ツナが指差して、獄寺が振り返った、その先には、 水色の半透明のプラスチックの細長い棒状の、 しかし圧倒的存在感を放つ、 バイブレーター。 next02 back .08.03.15 |
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