122403pm 冬休み二日目。お昼ちょっと前。 母さんは「晩ご飯はごちそう作るからね」と言い残して買い出しに、リボーンとビアンキはどこかに出掛けています。 どこ行くんだよって聞いたら、「クリスマスイブだからな」って、あいつめ、赤ん坊のくせに。 で、オレはいつもの様に日曜日のパパ状態でチビ三人の子守りをしながら留守番です。 ま、オレにはクリスマスだからって遊びに行くような相手も居ないんだけどさ。ハハッ…………あーあ、京子ちゃん何してんのかな………… とか思ってたら、獄寺君と山本が遊びにきました。 …………ヒマなのか。この二人。クリスマスなのに? 「二人ともデー……トじゃなくてえっと、何か特別な予定とかないの?」 「何をおっしゃるんですか10代目!」 玄関で獄寺君が身を乗り出す。 「10代目のお顔を拝見してその安全を確認することこそがオレには右腕として何より特別な……」 ……あ。聞くんじゃなかった。 「つかさ、こーゆー日は特別なことするよりダチと遊んでたほーが楽しいじゃん。」 うわあ、やっぱ山本っていい奴……! その考えは顔に出たらしくて、獄寺君がそっぽを向いてチッと舌打ちした。 「えと、まあ、ともかく二人とも上がって。いらっしゃい。何にもないけど。」 で、みんなでぐだぐだゲームしたり漫画回し読みしたり(マリオカートしてて負けそうになったランボが勝手にリセットボタン押して獄寺君と喧嘩になったり)しているうちに、オレたちはみんなお腹が空いてきた。 そこでオレは重大なミスに気が付いた。 「……しまった。母さんから昼食代受け取るの忘れてた。」 いつもは母さんが昼ご飯を用意がしてくれてたり、そうでなきゃ財布を預かってチビ達とコンビニに買い出しにいくんだけど、今日はどっちもない。クリスマスの食材を買い込むために冷蔵庫は空っぽです。つか、普段から家にないし。オレたち三人分とチビ三人分の簡単に食える食料なんて。 「……まいったな。」 こっちの事情はおかまい無しに、ランボがお腹減ったーとわがままを言う。フゥ太とイーピンがそれを窘める。 「10代目、昼飯代ぐらいだったらオレが……」 獄寺君は勢い良くジーンズのポケットに手を突っ込んで……、表情を一変させた。 山本も、こっちは確かめるまでもなく『悪ィな』と両手を上げている。もちろんオレもだ。 「い、いいよ、いいよ。友達からお金なんか借りらんないし、外寒いから買い物行くのも面倒だし、家にあるものでどうにかするから。ね!」 「くっ、スミマセン10代目! 次からはこんな失態は決して……!!」 と、必要以上の責任感で涙拭きつつ獄寺君が謝ってくれるのは……嬉しいっていうか正直心苦しい……けど、そんなのじゃお腹は膨れないので、オレは台所の戸棚を再確認する。 ……なんか後で『やーい、ガハハ、アホ寺ビンボーなんだもんね!!』『うるせーぞこのアホ牛!!』『ぴぎゃ!!』とか聞こえてる気がするけど、気にしない。オレ、腹減ってるし。 がさごそと戸棚を漁って、オレはついに買い溜めされていた『お徳用ホットケーキミックス』を見つけた。助かった。卵と牛乳なら冷蔵庫に入ってる。 「みんな、これでいい?」 「やった、ケーキだもんね! ランボさんケーキ好きっ!!」 いや、お前は何でも好きだろ。 「*%#¥+&!!」 えーと、何言ってるかわかんないけどイーピンも喜んでいるらしい。 「10代目、ホットケーキってなんスか?」 「え? 獄寺しらねーの?」 「う、うっせーな野球バカ、テメーには訊いて……!」 「あー、えっと、獄寺君、今から作るから……」 ……なんか、子守りの対象が一人増えてる気がする。 で、山本と二人でホットプレート出してきてボールに卵割って牛乳量って粉入れてまぜてまぜて…… 「へえ。ツナちゃんと自分の台所に何があるか知ってんのな。」 「ん? うん、まあ、オレどうしても昔っから留守番多かったから。でも、さすがに山本みたいに片手で卵割るとかは無理。」 「あー、これな。これは親父の見様見真似。ツナも練習すりゃ絶対出来る様になるぜ。」 「えー? どうかな。オレ山本みたく手でかくないし……」 「……あのっ! 10代目!!」 台所で並んで作業していたら、リビングから声が飛んできた。 「オレにも! 何かお手伝いできることは……」 ごめんなさい、獄寺君。ありません。これが駄目になったらオレたち飢え死にします。 「えっと、獄寺君は……ランボ見張っててくれると、嬉しいんだけど……」 「じゅ、じゅーだいめのご命令とあらば、よろこんで……」 全然喜んでいない声で決意表明した獄寺君にフゥ太が声を掛けた。 「ハヤト兄、じゃあ、お皿運ぶの手伝ってよ。食器棚の上の方だから、ボクじゃ手が届かないんだ。」 子守りの対象人数、一人増えて一人減ってやっぱり三人。 て、ちょっと待て。獄寺君に皿運び!? それは危険だとフゥ太を振り返ったら、フゥ太は『任せて』と目配せした。足下がちょっとだけ無重力になって、ティッシュボックスがフワフワと浮いている。なるほど、これなら落としても割れない。 ……やっぱ、フゥ太ってちょっとすげー……。 「……で、これがホットケーキ。」 「10代目、オレ、初めて見ました。」 獄寺君は、お皿の上で湯気を立てているホットケーキをまじまじと見つめていた。 こういうとき、獄寺君は非常識なんじゃなくて、本当に知らないだけなんだよなーとオレは思う。 「えっと、普通は蜂蜜とかかけて食べるんだけど……」 と、説明しているうちにランボがぱっと蜂蜜の瓶を手に取った。で、瓶をひっくり返す勢いでドバーッとかける。 「ランボさん、いっちばん!」 「#*%+&¥!!」 「こら、ランボ! 残りそれしかないんだからちゃんとイーピンと半分ずつだろ!!」 取り上げてイーピンに渡したら、蜂蜜の残りはもうほんのちょっとしかない。 ……あ。しまった。 「ごめん、フゥ太。」 「いいよ、ツナ兄。僕の分は。」 そう言われても、やっぱそういうわけにもいかないだろ? 「ちょっと何か探してくる。山本、こっちお願い。焼いててくれる?」 「おー。任しとけ。」 言い残してテーブルを後にしたら、一緒に獄寺君もついてきた。 「10代目、味付けの基本は『さしすせそ』です。砂糖と塩と酢と醤油と味噌です!」 ……『知らないだけ』っていうのは気のせいだったかな。なんか知識が偏ってるんだよなぁ。獄寺君て。 「ありがと、覚えとく……。えーと、とりあえず、ジャムとマーガリンと……」 冷蔵庫からめぼしい食材を取り出す。 「マヨネーズとかソースとかケチャップとかスか?」 「……いや、それはちょっと違うかな。」 「……そーなんスか。」 獄寺君はしょんぼりした声を出す。 「なー。ツナー!」 それを打ち破って、リビングから山本の声が届いた。 「甘くねーけど、チーズとかベーコンとかソーセージとか、けっこーいけるんじゃね?」 「あー。昼ご飯だし、甘くないもののほうがいいかもね。」 「じゃあ10代目! 梅干しとかワサビとか塩辛とか!!」 ……いや。ポイズンクッキングは遠慮したい。 「ごめん、それもちょっと……」 「……はい。」 ていうか、獄寺君は日本文化を絶対勘違いしていると思う。 山本は、器用だ。 野球できてやれば勉強もできておまけに料理も出来るって、すごい。 「武兄、上手だね! すごいまんまる。」 「おう、あんがとな。じゃんじゃん食えよ!」 「うん!」 「%&#*+¥!!」 「けど、ゴクデラのは真っ黒なんだもんね。」 ランボの言う通り、獄寺君の前には黒い歪んだ六角形のなにかができあがっていた。 プレートの上でどんどん焦げていくのを見ながら、どうぞって差し出されたらどうしようかと思っていたけれど、表情から察するに自分でも失敗したのはわかっているらしい。へら片手に山本がアドバイスする。 「獄寺は難しく考えすぎなのな。こーゆーのはてーっと流してぷーっときたらぱってひっくり返して、」 「わっかんねーよ!! テメーの説明は!」 「あはは。まあ、今日はオレに任せて食ってろよ。見てるうちにコツ掴めることもあるし。」 一理あると思ったのか、獄寺君は山本の手元をじーっと睨み始めた。目付きは、なんだかすっごく恐いんだけど。 「ごめんね、山本。なんかすっかり任せちゃって。」 「気にすんなって、オレも親父と一緒で人にもの食わせるの好きだからさ。つか、この調子だと一袋じゃ足りなそーだな。」 「じゃ、もう一袋開ける?」 「10代目、オレ、手伝います!」 「えーっと、じゃあ……ボール押さえて、」 「ハイハーイ!オレっちもやるー!!」 「ボールじゃなくて、ランボ押さえてて。」 「…………ハイ……。」 で、調子に乗ってわいわいやってるうちにチビ達は遊び疲れてどこかに行ってしまった。残されたオレたちも、さすがに満腹だ。 後に残ったのはお皿と、ボールに半分ほどのまだ焼いてない生地。 「どーしよっか、コレ。」 「焼いちまった方がいいんじゃね? 残してもしょうがねーし。」 「だよねぇ。捨てんの勿体無いし、母さん怒るし……」 とはいえ結構量がある。めんどくさいなあと持て余した生地をお玉でかき混ぜていたら、何か思いついた様に山本が『あ、』と言った。 「折角だからあれ作らねぇ? クリスマスツリー。」 「はあ? 何言ってんだ、お前。」 「大きさ変えて丸く焼いてさ、三角形に重ねたらそんなかんじになんねーかな?」 「なんねーよ。アホか。」 「えー? でも、テレビで見たぜ? なんか茶色くてまるっこいのぶわーって積み上げてツリーみたいにしたケーキ。」 山本は身振り手振りで説明してくれるんだけど、いつもの様にとても感覚的でよくわからない。 「でさ、なんかこんくらいのがこーなっててさ、」 「お前、まさかそれクロカンブッシュか?」 「あ、獄寺アタリ。なんかそんな名前だった。気がする。」 「お前な、それ、一応クリスマスにも食うけど……。つか、球形のもの積み上げんのと円形のもの重ねんのは全然違うだろ。」 「見た目三角形なら一緒じゃね?」 「一緒じゃねーよ!」 「まあまあ、二人とも」 オレは、オレの全然知らないものについて喧嘩を始めてしまった二人の間に割り込む。 「どーせ余ってるんだしさ。一応やってみようか?」 「うし。じゃあまずは一枚目なっ。」 山本が張り切ってお玉を手に取る。 「……て、なあ。土台ってどのぐらいの大きさで作ればいいと思う? 途中で足りなくなったら天辺まで作れねーし。」 「アホか。一番上から作りゃいいだろが。」 ああそっか。一番小さいのから作れば足りなくなったりはしない。 「なるほど、そーだな。やっぱ獄寺って、頭いいのな。」 「てめーに言われても嬉かねーよ。」 獄寺君が山本に向かってそう言ったので、なんだかオレは口を挟み損ねてしまった。 焼き上がったホットケーキを重ねてみる。 コインぐらいの大きさから始めたら、ケーキは結構大量に出来て、単純作業を続けていくうちにオレたちは結構わくわくしていた……のだけれど、できあがって皿の上に現れたものを見て、オレたちは顔を見合わせてしまった。 なんかちょっと、チガウ。 「こ……これさ、なんかツリーってより、えっと……茶色いピラミッド?」 「あれ、おっかしーな。予想じゃもうちょっと」 「色がマズいんじゃないスか? 砂糖かけて白くしてみるとか。」 「あ、じゃあ、ついでにイチゴジャムあったよね。白と赤で誤魔化してみる?」 「わ。誤魔化すってハッキリ言うなよ、ツナ。」 「だって、コレ、ランボが見たら絶対にさ……」 「ちょ、待ったツナ、それ禁句。」 二人で声を殺して笑っていたら、獄寺君だけわかってない様子で目を瞬かせた。 「砂糖、かけますよ?」 「あ、うん。」 ぱらぱらと茶漉しで砂糖をふりかけると、ケーキの上にうっすら雪が降った。 「で、赤……。まあ、こんなかんじっスかね。」 ぽとんぽとんと赤いイチゴを落とすたびに、ロウソクに火が灯った様になる。 余り物で作ったケーキはあっという間に見違えた。だけどそれよりびっくりしたのは、こっちの事実だ。 「なんか、獄寺君意外と慣れてる……?」 びくっと振り返った獄寺君は、照れたみたいに顔を赤くしていて、で、ジャムの瓶を取り落としそうになった。 「うわ、スミマセン!」 あ。やっぱり獄寺君基本的にはこういうの向いてない。 ギリギリセーフだったジャムの蓋を締めながら、獄寺君は言った。 「だって、クロカンブッシュでしょう? オレそーゆーの、ガキの頃に見慣れてますんで。」 「あー! ケーキ見っけ!!」 食べ飽きてさっさとどっか行ってしまったくせに、一番に戻ってきたのはやっぱりランボだった。 「なんだよ、お腹いっぱいになったんじゃなかったのか?」 「そんな昔のことは忘れたわボケェ!」 「あ、ほんとだ。けっこー時間経ってたのな。」 時計をみると3時近い。 「じゃ、片付けておやつにしようか?」 「ランボさん、一番上のがいい!」 「待て、アホ牛。一番上は10代目のもんだ!」 「いや、オレ別にどこでもいいんだけど……」 「え? そーなんスか?」 「ガハハ! スキありだもんね!」 「あっ、アホ牛てめー……!!」 「つか、獄寺君、本当は自分が一番上欲しかったの?」 「なっ! いえまさかそんな……」 「あはは。ほんと、獄寺とチビって考えること似てるのな。」 「うるせぇ、んあわけあるか、この野球バカ!」 「わーい、ケーキケーキケーキ!!!」 「こら、ランボ。一人で全部食うなよ。食べるのはみんな揃ってから!」 ……というわけで、 メリークリスマス。 08.12.24. back |
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