ハニィハニィハニィ キッチンの奥 冷蔵庫の向かいの棚の 上から三段目左端に ハチミツのビンがしまってある。 母さんは昔から料理が好きで ハチミツも昔はもっと低いところにあって オレはそのころ、よくこっそりつまみ食いをしてた。 ハチミツのビンにはハチミツ専用の、 なんだかでこぼこしたタマゴ型の木の棒がついていて それですくって嘗めるんだ。 スプーンを使っちゃいけない。 母さんにバレるから。 もちろん、その棒も汚しちゃいけない。 口を開けて舌の上にゆっくり垂らすんだ。 甘い味にウキウキしながら、 いつ母さんに見つかるかってハラハラしながら。 今は、チビ達が走り回って危ないから ハチミツのビンは 子供には手の届かないところにしまわれている。 でもオレ達はもう子供じゃないから 手が届くんだ。 チビ達も母さんも リボーンもビアンキも 誰もいない時を狙って 背伸びして戸棚を開けるんだ。 台所の一番奥に 君を誘って 二人で隠れて 『目をつぶって』 『舌を出して』 『口、閉じちゃダメだよ』 ハチミツは ゆっくりと 細い金色の糸になって ゆっくりと 赤い舌の上に渦を巻く。 全部流れ落ちても オレがいいって言うまでは 口を開けていてくれるよね。 目を閉じて、 顔を、舌を突き出して。 君は何にも知らないから。 ねぇ、子供の頃からあのハチミツ、 欲張って一掬い全部嘗めると、 甘すぎたんだ。 神様に叱られてる気分だった。 つまみ食いなんかして、キミは悪い子だ。 って。 ねぇ、 オレ達はもう子供じゃないから、 二人で分けあってもまだ甘いぐらいだよね。 分けあっても、まだ甘すぎて、 きっと口の中はぬるぬるして、 舌はひりひりするんだ。 それから、 いつもつけてる香水の匂いがして、 タバコの匂いがして、 ああ、そんなに近付いたら、 オレと同じ、埃っぽい制服の匂いもするかもしれない。 ねぇ、台所の隅で、 キミの体を壁に押しつけて、 二人で声も出さなければ、 誰にも気付かれないかな。 オレがいいって言うまで、 オレがなにしても、 言う通り、黙って目を閉じて、 口を開けていてくれるよね。 ねぇ、オレ どうしてこんなにいらいらしてるんだろう。 ちょっとだけ、悪いことがしたくてたまらないんだ。 ねぇ、 ねぇ獄寺君。 「……獄寺君、ハチミツ好きかなぁ……」 一人っきりの部屋に、声が零れた。 これはハチミツじゃないからすくって嘗めても苦いだけで、 ほんの少しほてった身体は、 ひとしずく零しただけじゃ、どこもかわらない。 「……どうかしてるよ、オレ」 つぶやいて顔を覆って、ツナはばったりとベッドに倒れた。 back |
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