あてんしょん。
高校生ぐらいの気分。
どっかの組織に殴り込みに行った獄寺さんと山本さん。
ちょっとバトル漫画っぽいのが書きたかったんです。が……。



追い風Jump


うっわ、逃げられた。

隣で山本が言った。

「何やってんだよ、このバカ!」

冗談じゃねー、
散々トラップ張り巡らして、追いつめて、
やっと無血開城、一網打尽ってココで、
逃げられた、だって?

「クッソ」

銃口はバンザイしている雑魚どもに向けたまま
振り向くと
確かに窓の外を男が一人、転がるように駆けていくところだ。

入り口のトラップを凌いで隠れてやがったな。
卑怯者め。

走ってとっ捕まえるには遠い。
山本は刀しか持ってない。

『撃つか?』

逃がすわけにはいかない。

『30人生け捕りなら、死者1人ぐらいどうってこと……』

ちらっとあの御方の顔が脳裏によぎる。

『撃つのか?』 

ほんの一秒の躊躇。
銃口を向けられて、バンザイしている雑魚どもも、
それに感づいて逃げ出す隙を窺い出す。

『破綻する』

撃つしかない。
銃口を、逃げる男の背に向けた。

『悪いな、ひきょーもん。てめーは切り捨てだ』

引き金を、

『ああ、10代目が……』

引く、

『悲しむな……』

その刹那。

「獄寺!」

山本が叫んだ。
窓枠に手をかけて。

「飛ぶ! 追い風よろしく!」

一言残して、
ひらり飛び降りる。

『……あー』

一瞬、

『そー来たかよ』

安堵した。
それならおかげで、撃たずに済む。

『おかげで?』

心とは別に、思考回路は計算していく。
必要な飛距離、風速、火薬量と、人体の許容範囲の限界値。
片手は悩まず『最適』を弾きだす。

『ふざけんなっつの』

飛び降りた背中にダイナマイトを投げつける。

『……つかいっそ、テメーが果てろ』

爆発音。
雑魚どもがどよめく。
ドサッと、計算通りのタイミングで、何かが地に落ちる音がした。
雑魚どもは震え上がる。

「……逃げられるなんて思うなよ。」

雑魚どもは震え上がる。
コイツは、ドジった仲間に躊躇無く制裁を加えるような、
とんでもない奴だと言う意味で。
そして、まるで戦意を喪失して、壁際にへばりつく。

見極めて、銃を降ろす。
使わずに済んでよかった。
脳裏に、あまりにもマフィアには不釣り合いな
あの笑顔がよぎる。

「……覚えとけよ。」

釣られて浮かぶ自分の笑みは消して、凄む。

「ボンゴレ10代目ファミリーは、甘くないぜ?」

完全に悪役。

『ま、あの御方の右腕なら、こんくらい汚れ役でちょうど良いか』

遠くでかすかに、ぎゃあ、と、逃げた男の情けない声がした。
あっちも終わったようだ。

『ホントのトコなんざ、
 こいつらに教えてやる義理もねーし、
 命は助けてやってんだし。
 檻ん中で種明かしされてビビりゃいい』

あの御方の懐の深さに。







「いやー。ちょーっと思ったより痛かったのな。」

合流した山本は、鞘で肩を叩きながらそう言った。

「飛距離だけでよかったんだけど、加速も付くのな。
 着地したら膝が痛いのなんの。」

「あったり前だろバーカ。物理の授業なに聞いてたんだよ。」

なんてことはない種明かし。
あのダイナマイトは加速用のブースター。
走っても追いつかないから、爆風で吹き飛ばしたのだ。

「しっかし、よく『追い風』で分かったな。」

「…………知らね。」

『……』とか言ったらコロス。ぜってーコロス。
脳内で念じる獄寺の願いは虚しく。

「なーんか『長い付き合い』って感じだな。なっ! 獄寺っ!」

大声で明言して、がばっと山本は獄寺の肩を抱いた。

「ふっざけんな! だれがてめーなんざと! 大体、てめーがさっさと気付けばなあ……!」

「なんだよ、照れんなって。やっぱけっこーいいコンビじゃん。俺ら。」

「誰がだよ!! 離れろ、このバカ! やっぱてめー、いっぺん果てろ!!」

「ははっ なんだよ、素直じゃねーのなー。」

引き離せない山本の腕から、まだかすかに炎の匂いがする。

まあ、ともかく、今回も無事、任務完了。
誰にも、取り返しのつかない傷は、つけずに済んだ。
この報告なら、あの人を悲しませない。

「……獄寺?」

どうかしたかと覗き込んだ山本を、思いっきり蹴り飛ばして、

「さーて、報告すっかなっ!」

獄寺は意気揚々と歩き出した。



おしまい。




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