くらい。-never more- 終わったら、まっすぐシャワールームに向かう。 ザーザーと流れる水の音を聞きながら、奥深くまで指を進める。 気持ちワリィ。吐きそう。 指がそのまま胃も喉も突き破って口から出てくるんじゃないかと思う。 嫌悪感に堪えて、中のものを掻き出す。 わざと、嫌悪感しか感じないやり方で強引に掻き出していく。 だらだらと薄く白い液体が内股を伝って流れ落ち、 排水溝に飲み込まれていった。 あとはもう透明な暖かい水ばかりが足元を濡らす。 それでも、まだどこかに残っている気がして、 まだ足りない気がして、 手の平で湯を受けては内臓をえぐるようにして洗い流していく。 「…………っ痛、」 どこかを傷付けた。 痛みに、指を差し込んだままで身体が硬直する。 ここまでやりゃあ、もう充分か。 そろそろと指を抜く。 途中、どこかに指が触れた。 嫌悪感とは違う、痛みとも違うソレが、 瞬間体中を走って動けなくなる。 ちらとそこに目をやると、既に半分勃ちあがっている。 最悪だ。 だからわざと痛めつけるようなやり方をしたってのに。 なのに、理性とは違う、別などこかが、もうぞわぞわと動き出している。 指先が勝手に、思い出してなぞろうとする。 あの方の触れた跡を。 最悪だ。 最悪だ最悪だ最悪だ。 呪いながら自分の指でその跡を辿る。 身体が撥ねた。 諌めるように前に指を絡める。 こっちは手の向きが違うから、自分じゃうまくいかない。 まさか逆手に持ち替えるほど愚かじゃない。 って、今更なに言ってんだよバーカ。 身体がひくつく。 額を壁に預けてどうにか支える。 背中を熱い湯が流れていく。 それでさえ、まるで撫でられているように錯覚する。 最悪だ。 お慕いしています。 この気持ちは嘘じゃない。 あなたの役に立ちたい。 あなたに認められたい。 この気持ちは真実。 けど、 『大好きだよ』 オレを抱いて、耳元で囁いた、あの人の声が蘇る。 胸の奥が熱くなる。 まぶたを閉じた。 また、なにかが溢れて出そうだった。 本当は、あの時尋きたかった。 それは、なんですか? その気持ちはなんですか? 認められたい。 役に立ちたい。 必要だって言われたい。 あなたに求められたい。 あなたのためなら、何だってします。 この思いは嘘じゃない。 だけど 『大好きだよ』 蘇る。 繰り返す。 もういちど……、もっと。 でも、指先が震えて、あの方の跡を辿れない。 もどかしい。 身体が、欲しいのはこれじゃないって騒ぐ。 『大好きだよ』 声がこだまする。 聞きたい。 もう一度あなたの声で。 そして、叶うなら、教えてください。 その気持ちは、なんですか? オレの、この気持ちは一体なんですか? お願いです。教えてください。 水の音が耳を塞いでいる。 ぐちゅぐちゅと指を濡らし、どくどくと体内を駆け巡り、 ざあざあと頭から足の先まで全身をなぞるように洗い流して、 それでも、 ああ本当だ、閉じた瞼からまだ別ななにかが頬を伝っていく。 なにも見えない。 聞きたくない。 ただ繰り返す。 『大好きだよ』 身体が震える。 ああ、壊れてら。 いかれてる。 気が狂う。 十代目、お願いです、 いっそ見捨ててください。 そんな言葉は繰り返さないで。 さもなきゃ、 お願いです、 どうか、 (助けて) 「、あ……。」 白いものが手を汚して、瞬く間に流れて消えた。 最悪だ。 最悪だ最悪だ最悪だ。 こんなところ、あの方には死んでも見せらんねぇ。 知られたくない。 ……最悪だ。 壁を突き放して湯を浴びる。 全部洗い落としちまえ。 流し去ってしまえ。 消えてしまえ、こんな思い。 頬が濡れているのはシャワーのせいだ。 「お慕いしてます」 水音に掻き消されても、この思いは真実。 (愛してます) 声にならなくても、それだって嘘じゃない。 けど、 『大好きだよ』 それは、言葉にもならない。 ぽたりと生温い雫が落ちる。 わからない。 わからないわからないわからない。 悲しくなんてない。 つらくもない。 痛くもない。 なのに、胸が締め付けられる。 光栄です。 恐縮です。 きっと、オレは、幸せです。 なのに、一番返したい言葉は声にも音にもならなくて、零れて落ちる。 なんでだよ。 抜け落ちてるんだ。 さっき確かに受け取ったのに。 くるしい。 一番返したい言葉は胸にはない。 さっき確かに受け取ったのに、ここにはもう 抜け落ちた痕しか残ってない。 オレの中には、どこにもない。 その空隙が押し潰されて、息も出来ない。 くるしいんです。 いっそ苦しいくらい、 オレは、あなたが 『 』 ……ほらまた、 零れて落ちた。 back |
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