ふたりの場所 -05- 背中を胸に預けるように座り直させられた。 掴まるならこっちに、と、手は綱吉の肩の辺りに導かれる。無防備になった腹部にゆるく綱吉の左腕が回された。 するりと大きな右手が頬を撫でる。指先がやんわりと唇をつついた。 「っ、なに……」 「じっとして。オレに任せて。」 頬擦りするように耳元に口を寄せて、言い聞かせるように囁かれる。 指が触れるか触れないかの弱さでふっくらと膨らんだ唇をなぞる。 くすぐったい。 じっとしていられない。衝動のようなものが渦を巻いて、獄寺はむずがる様に身体を揺らした。 動きを封じるように、腰骨の辺りをぎゅうと抱き込まれる。綱吉の指はふにふにと唇を刺激して、もどかしさに声をあげようとした隙に、ぬるりと口の中に忍び込んだ。つぼみの花弁を一枚ずつ剥ぐように、下唇を割って、歯列の隙間から舌に触れる。 「んっ……、」 反射的に指の先をペロリと舐めた。 舐め上げる舌先の動きにあわせ、綱吉の指が口内に侵入してくる。関節を一つ、二つと受け入れてしまうと、それはもう追い出せなくなる。 舌先、歯の付け根、顎裏。 ちょっとずつくすぐられて、とろりと唾液が溢れる。開け放した口から垂れるのはみっともない気がして獄寺は指に吸い付く。ちゅく、と、やけに濡れた音がした。 「自分で出来るなんて、上手だね、獄寺君。」 羞恥に身体が熱くなる。 咄嗟に否定を試みるが、指先で舌の上をあやされて、声が出るはずもない。とろとろと唾液が溢れてくるばかりだ。 今度は変な音を立てないようにゆっくりと飲み干したら、綱吉の指が思うよりずっと太いことに驚かされた。 宿題を手伝う時の、シャープペンシルを持つツナの細い指を思い出して、あれも、銜えればこんな感覚なんだろうかと思う。 頭がぼおっとする。 綱吉の指が動きを止めた。そおっと滑らかに撫でるのを、無意識にちゅくちゅくと吸い続ける。腰の辺りが重くなって、熱を逃がそうと身体が揺れる。すると腰骨の上に回された腕がきつく抱きしめてくる。 肘の辺りできつく押さえ込まれて、左手はそっとシャツの裾から潜り込み、微かに汗ばみ始めた肌を撫でる。柔らかな肌の下、育ちつつあるしなやかな筋肉を確かめるように、そっと。 もっと、と言われてるみたいで、止まらなくなる。またクチュとぬるい水の音がした。は、と綱吉が重い吐息を零す。そのまま首筋に顔を埋めて、獄寺君、と気怠げに囁かれた。 「そろそろ、オレの指融けちゃうよ。」 あ、と思った瞬間にずるりと指を引き抜かれた。 「ン……っん、ふ」 こくん、とつばを飲み込む。あーあ、と、綱吉が笑った。 「もう。指どろどろだ。」 カーテン越しのネオンを受けて、てらてらと指が光る。夢中になってしゃぶっていた自分に気が付いて獄寺は俯いた。 恥じ入ったのはそれだけが理由ではない。 指先に夢中になっているうちにTシャツはたくし上げられて上気した肌を晒しているし、寝間着代わりのジャージはみっともなく内側から押し上げられている。 綱吉の手がそろりと肌を撫でてジャージのゴムに指をかける。 見ていられなくて、獄寺はぎゅっと目を閉じた。 大丈夫、と綱吉の囁く声がする。目を閉じても暗闇でも分かる。下腹部が外気に晒される感覚。それからさっき散々に濡らした指がそこに触れた。つるりと弱い肌の上を滑る。 「や……っ」 獄寺はびくんと身体を震わせて、反射的に立てた膝を擦り合せた。太腿で綱吉の手首を押さえる形になる。危うい距離で右手が固定される。触れられはしないけど、すぐ近くに他者の気配。それも恥ずかしかったが自分から脚を開く勇気もない。 身を強張らせる獄寺の額に、綱吉は、ちゅ、と軽くキスをした。 「焦らなくていいよ。力、抜ける?」 頭上から覗き込むと、獄寺は弱くかぶりを振る。 「うん。じゃあ、ゆっくりね。」 自由な左手で滑らかな肌の上を撫で上げていく。最初は臍の辺りから、張り出した腰骨の稜線を辿って脚へ。 ただ触れられているだけなのにびくびくと獄寺の身体は震えた。その度にあやすように綱吉は獄寺に頬を寄せ、軽いキスをする。唇で髪を食んで、こめかみに触れる。 そうされると目の回るような強い感覚が遠のいて、かわりにゆっくりと視界が蕩けていった。 思い知らされる。 いま自分が身体を預けているこの人は、自分よりずっとこの身体のことを知っているのだと。何だか泣きたくなるのは、年上の男にいいようにあしらわれているからではなく、自分がその状況を受け入れているからだ。考えるより速く、身体が相手を受け入れている。 嘘みたいだ。自分が、誰かに全部委ねるなんて。 脚の付け根から膝裏までを擦り上げられると、強い摩擦にひくん、と脚が震えた。その隙を逃さず、緩んだ膝の間に綱吉の脚が割り入ってくる。 閉じていた脚は、簡単に大きく押し拡げられてしまった。もうお互い闇に目が慣れた頃だ。綱吉の目には立ち上がった部分が露に見えていることだろう。しかし、再び閉じようとするより早く、綱吉の手がそれを包んだ。 「あ……」 大きな手の平で擦り上げられる。ぬるりと滑った感触は、先刻とまるで違う。待ちきれずに溢れ出したもので濡れているのだ。 「な、なん、で……っ」 「ごくでらくん、すぐとろとろになっちゃうから。」 くすくすと笑う綱吉の手から、卑猥な水音がする。 「や…ちがっ」 自分でしたって、こんなに先走りでどろどろになったりはしない。 何かの間違いだ。 「なんで? かわいいよ?」 恥ずかしくて死にそうで、獄寺は身を捩って綱吉の愛撫から顔を背ける。そんなコトしても綱吉は手を止めてくれない。どころか、いい子だから、と優しく声をかけた。 「いい子だから、オレに任せて。ちゃんと感じて?」 言葉とともに張りつめた先端を撫でられると、耐えきれず高い声が出た。 「……あ、ひぅっ……やっ…だ」 蕩かすように撫でるかと思えば、指を立ててくじられる。とろりと雫が浮かんで、それを塗り付けられる。 「あっ…は、ん……、」 あ、掴まされたのはこのためだったのか。 びくんびくん戦慄く身体が止められなくて、獄寺は綱吉のシャツの肩を必死で掴む。 思い知らされる。 本当に、オレはこの人のものなんだ。 「っ、は…ぁ、じゅう、だいめっ…おれ」 『イきたい?』 綱吉の問いかけに獄寺はコクコクと頷いた。 手の平で優しく包まれる。導かれるまま、身体を委ねる。綱吉の手が獄寺のそれをするすると追い立てる。 「ぅ…、あ……あ、ア!」 その手を汚したというのに、綱吉は慈しむように獄寺の髪に口付けた。そうして髪を撫でながら獄寺が荒い息を整えるのを待つ。 けれど、獄寺の身体の熱は一向に引かなかった。は、は、と荒い息を繰り返す。 「治まらない?」 またするすると手が降りてくる。 「すぐには、止まらないと思うよ。獄寺君、いつもそうだから。」 ゆるく握り込まれると言われた通りで、獄寺のそれはまた素直に形作ろうとする。 「待っ……、っ、」 それは、ちっとも不快ではなかったけれど。 一方的に弄ばれているような気がして、獄寺の負けん気に火がついた。 「……いっつも、こんな、」 「ん?」 「こんな、やり方……?」 綱吉の腕を掴んで止めて、獄寺は問いかける。 と、綱吉は思った。 このまま消耗させて、最後まではしないつもりだったのだ。 そんなやり方でなきゃ信じられない彼の不器用さは、想像の範疇だ。けれど、綱吉の目に映るのは、どう見てもまだ14歳の少年だった。未完成の身体に手を出すのは、罪悪感がある。 嘆息一つして、口実を探す。 「……ゴムないだろ?」 「必要ない。」 10年後の自分がどんなやり取りをしていたか、大体想像がつくらしい。獄寺は照れ隠しでもするようにそっぽを向いて、わざと強い口調を使う。 「……あんたは、オレの10代目じゃねーし。何感染ろうが知ったこっちゃねーよ。」 そして語気とは反対に、放すまいと綱吉の腕を抱いた。 『好きだって証拠を見せて』 好きだから大事にしたくて、そこまででやめておこうと思ったのだ。 綱吉はダメと言おうとした。子供にそんなことできない。なんて言っても通じ無いのは分かっていたから、適当な言い訳を探した。 「……それとも、」 灰銀の目が薄やみに光る。 「あんたの好きって、こんな薄膜一枚も破れないもんなのかよ。」 頬が赤く染まっている。頬も耳も、あらわになった下肢も全部。青白い肌が今は薄赤く光を放っている。命令形の口調は、少し上擦っていた。 『好きだって証拠を見せろ。』 精一杯の強がりが脳内で反響する。 証拠って何? 君が好きだよ。世界で一番大事。 離したくなかった、離れたくなかった、でも出来なかったんだ。 傷つけるのは分かってた。傷つけたのは知ってた。けど、お帰りって前みたいに笑って欲しかった。 証拠が欲しい? ……そう。そんなに一方的に気持ちを押し付けていいのなら 獄寺の手を振り切り、綱吉は彼に触れた。 「…っ、10代目! まだ、話……」 「ゴムも何にもないんじゃ、これ使うしか無いだろ?」 すくいあげて指先の粘液を見せつける。 「ちょっと我慢しろよ。量が要るから、今度は楽にしてあげられない。」 それから、何でもお見通しだと見せつけるように、くすりと笑って付け足した。 「まあ、獄寺君のことだから、すぐだろうけど。」 Next 06 .09.09.26 Backindex |