おもちゃ。03 びっくりしたのは、それが意外に熱いこと。 手でするならともかく、口でもちゃんと熱を感じるので、 ツナはへぇ、とおもった。 それから、思ったよりずっとよく動くこと。 どくんどくんと心臓のテンポに合わせて、 大きさをかえて硬さをかえて、 少しずつ立ち上がっていく。 (後は、味だけど……) こればっかりはどうしようもないので、 頭から打ち消した。 「……で。 獄寺君はなんで、そんなに我慢するかな?」 ツナは、根元を押さえて すっかり立ち上がったソレから一度口を放した。 見上げると獄寺の目は潤み、 半開きの唇からは浅い呼吸が漏れている。 「そんなに、オレに出すのいや?」 見せつけるように出口の部分を舌でつつく。 溢れる水ように液体が滲み出して、 うっすら白の混じった球体を形づくる。 続きを促すようにツナはそれを吸い取った。 けれど、 「ひ、……ゃ…………」 獄寺は、たったその一滴こぼしただけで、 残りは全部、くぅと押さえ込んでしまった。 これはもう、あきれるべきか感心したほうがいいのか。 ツナは再び顔を上げる。 獄寺が涙目でにらんでいる。 「10代目、こそ、手、放して、顔、遠ざけてください。」 「やだ。」 「……なんで、」 「こっちこそ『なんで』だよ。不公平だろ。いっつも獄寺君ばっかり。」 反論は取り合わず、 ツナは再び顔をうずめる。 こうなってくると、ただの意地の張り合いだ。 (口つけちゃえば、こっちのもんだと思ったんだけどなぁ) まだ少し、ヨミが甘かった。 (獄寺君の分からず屋め!) 気を抜けば獄寺は膝を閉じようとしてくるので、 両腕はそれを防ぐのに手一杯。 他には使えない。 口でするしかないのだけれど、獄寺はじっとこっちを見て身構えている。 あと一押し、なのだけれど、それが思いつかない。 (あーもー。なんか、模擬戦でもしてる気分になってきちゃったぞ。) 意識の一部がゆっくりと醒めていく。 状況を把握して、次の一手を探し出す。 (……あ。) 思いついて、ツナはゆっくりと顔を上げた。 「獄寺君。」 さっきも使った手だけれど、この際文句は言っていられない。 ツナは意図的ににっこりと微笑む。 「じゃあ、アレ、取って。」 視線の先には、さっき獄寺が投げ捨てた、 水色のバイブレーター。 「…………え?」 「アレ、取って。獄寺君、自分で持つって言ったよね?」 あと一手、つつけばおちるとツナは踏んでいた。 (何でもいいんだ。 ちょっとでもこっちから意識が逸れれば、その隙に……) 狙い通り、しばしの逡巡の後 獄寺の右手が、掴んでいたシーツを放した。 後方に身をよじる。 視線がこちらから外れたその時を見計らって、ツナは獄寺に口づける。 「ひぁ、………んっ」 身体が撥ねた。 足が突っ張る。 中ほどまで銜えて、ツナは根元の拘束を解いた。 「っ、やだ、やめ……」 聞かずに、舐め上げる。 先端からぬるい水が溢れる。 「じゅーだぃ、め。くち、はな、し……て……っ」 (いやです。) さらりとした最初の一滴が舌を濡らす。 溢れ続ける体液は徐々に粘度を持ったものに変わっていく。 ツナは『勝利』を確信した。 (や、別に戦ってた訳じゃないんだけど。) まあいいか。 そんな風に気を緩めたのがよくなかったのかもしれない。 無機質な水色の光沢がツナの視界の端に映った。 獄寺の、立てた膝の下に。 (おお、さすが獄寺君……) リチギだなあ。 ぼんやりそんなことを考えながら、 深く銜え直し、きゅううと吸い上げる。 「あ、あ……!」 とくん、と、今までとは違う苦いものが舌先に落ちた。 獄寺の身体が強張る。 足がシーツを蹴り上げ、手首が返る。 その手に持ったものが向きを変え、 獄寺のもう一つの好いところをかすめた。 (え?) それは、かすめたところにあてがわれ、そのまま…… (うそ、そりゃ、取ってとは言った、けど……) ついに、びゅ、と、熱いものがツナの上顎を撃った。 う、と、眉をひそめ、ツナはその白濁を飲み下す。 飲み下しながら、ツナはただその光景を見つめていた。 その光景に、魅入っていた。 ◇ 先端が、そこにあてがわれる。 プツ、と、めり込む。 ろくに馴らしていないその部分は硬く、 容易には先にすすまない。 「……うっ、く、」 苦しげな声を漏らしながら、獄寺が力を加えていく。 「く、……ぁ……ア…………」 ずぷり。 おとをたてて、最初の膨らみが体内に潜り込んだ。 「ア!」 よほど力を加えていたのだろう、 挿入の勢いは止まらず、全体の半分までもが体内に飲み込まれる。 「ハ、アッ……ァ……、」 息を吐いて、獄寺が脱力する。 崩れるおちるように、上半身が仰向けに倒れて 獄寺の身体はベッドに沈んだ。 反動で、体内に押し込められていたものが吐き戻される。 内壁を摩擦されて、獄寺があられもない声をあげる。 ツナの口内のものは、震えながらどくどくと精を吐き出し続けている。 「…………ゥッ……ア……」 一度息を吐いただけで、獄寺は挿入を再開した。 押し出されてしまったものに手をかけ、寝そべったまま そろそろと体内にねじ込んでいく。 ほんの少し腰を浮かす。 銜え込んでいる部分が露になる。 綺麗な赤色に染まり、ひくひくと震えながら ゆっくりと、しかし確実に、青い半透明の棒を飲み込んでいく。 ◇ ツナが我に返ったのは、 獄寺がその棒をどうにか体内に納め終え、ぐったりと息を吐いた頃だ。 慌てて顔を上げる。 「ごっ、……!?」 口の中のものの存在をすっかり忘れていて、 むせ返る。 どうにか飲み込んで、 飲みきれなかった分が口の端を伝う。 こぼれてシャツを汚す。 そんなものにはかまっていられない。 「獄寺君!?」 手の甲でぞんざいに拭って、ツナは獄寺に向き直る。 「大丈夫?」 手を伸ばす。 けれど、指先に触れたのは彼の肌ではなかった。 獄寺はまるでツナの手を避けるように身を捻って、 ベッド脇のミネラルウォーターを手に取った。 それを、伸ばされたツナの手に突き出す。 「くち。ゆすいで、ください。10代目。」 それだけ言うと、獄寺はまたばたりと倒れた。 苦しげに息を吐く。 胸が大きくへこんで、そのまま引き攣って戻らない。 「獄寺君!」 「……っ、へーき、です。オレは、」 震える手で、獄寺はツナの口元を指差した。 「へーきです、から。10代目は、それ、ながして……」 「平気って、…………ああもう!」 (どーしてこの状況で『オレ』なんだよ!?) ツナは一口水を口に含んで飲み干した。 そうしなきゃ、言う事を聞きそうにない。 「ゆすいだから! 獄寺君、身体……」 覆い被さるようにして顔を覗き込むと、 獄寺は青い顔をして笑ってみせた。 「だ、から。オレは、だいじょーぶです、って。 なんなら、スイッチも、入れましょう、か?」 (どこが、『大丈夫』なんだよ!) 「…………こんの、バカ!!」 大声で言い放って、足下に回り込んだ。 「抜くからね! じっとしてろよ!」 バイブは、ほとんど根元近くまでねじ込まれていた。 手をかけると、獄寺の下腹部に緊張が走った。 「……たぶん、痛いけど、我慢して。」 右手で、獄寺の手を握った。 左手で忌々しい異物に触れる。 (ごめん!) 心の中で叫んで、一気に引き抜いた。 その一瞬だけ、つながった右手が骨がきしむほど握りしめられて、すぐに緩んだ。 くったりと力が抜ける。 そっと握り返しても、反応は返ってこない。 けれど、指先は絡められたままだったので、 ツナはほんの少し安心した。 ゆるされたような気がして。 こんなことをしても、まだ、ゆるされてしまうのだと知って。 (……バカなのは、オレの方だ。) シーツにもどこにも、血痕は見あたらなかった。 せめてものさいわい、だ。 無事でよかった。 「傷は、つかなかったみたい。」 引き抜いたものを投げ捨てて、ツナは獄寺に近づいた。 「だから……言ったじゃ、ないスか。オレは、へーきです、って。」 「……こういうの、平気って言わない。」 顔色も元に戻ったけれど、獄寺はまだベッドに転がったままだ。 いつもならすぐに起き上がって、 あれやこれやとツナの世話を焼こうとするのに。 今は、ただ仰向けになって、どうにか呼吸を落ち着けようとしている。 ひどい汗のせいで、髪が額に張り付いていた。 それを丁寧に剥がしながら、ツナは獄寺にたずねる。 「なんか、オレに出来る事ある?」 「あの、10代目……、お気遣いは、嬉しいんスけど、 オレ……病人でも、怪我人でも……」 「いいから。」 なんかない? 繰り返すと、獄寺は『じゃあ水を』と言った。 身を起こそうとしたので手を差し出したら、 また、大丈夫ですと言われてしまった。 キャップを外して、ペットボトルを手渡す。 獄寺が、受け取って、それを一口飲む。 (おわっちゃった、オレに出来る事。) ツナは、なんでこうなっちゃったんだろう、と考えながら ぼんやりと獄寺を見ていた。 獄寺もどこか上の空で ペットボトルを口元に当てたまま、ただ座っていた。 なんでこうなっちゃうんだろう。 オレは獄寺君が好きなのに。 獄寺君だって、きっと、オレが…… なのに…… なのに、視線すら交わらないのだ。 どうして、こうなっちゃうんだろう。 next04 backIndex .08.03.15 |
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